総合ディスクロージャー&IR研究所

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調査研究報告Research

研究員コラム

小谷主席研究員

研究員コラム「気候変動関連開示はすべての企業にとってマテリアルか?」を発行しました。

 温暖化による洪水、雹による被害、海外ではそれらに加えて多発する山火事、8月23日には欧州委員会が監督する欧州干ばつ観測所(EDO)から「欧州の47%は土壌の水分不足が明らかな警告状態、17%は植生が影響を受ける警戒状態にある。」とした報告書が発行される等、常識的に考えて昨今の異常気象に対して国のみならず企業や個人もなんらかのアクションを取る必要性をほとんどの人は感じているのではないだろうか?

 自社工場や営業拠点が当該自治体の作成するハザードマップにおいて、洪水のリスクがある地域に位置する場合、その被害によって将来キャッシュフローを毀損し、ひいては企業価値も毀損する物理的リスクがあるかも知れない。或いは、欧米による炭素税等の導入によって売価に過大な負担がかかり競争力が失われるという移行リスクが発生するかも知れない。しかし、企業活動によるキャッシュフローを大きく伸ばせず、企業価値を下げてしまった企業が、仮に、気候変動関連リスクに積極的に対応したことで投資家はそれを手放しで喜ぶだろうか? 例えば、「株主の皆様、今年は収益目標に遠く及びませんでしたが、気候変動対策が大きく前進し、全体として素晴らしい年であったとお喜びいただけることでしょう。」とした招集通知を受け取った株主は果たしてどう感じるだろう。

 企業の情報開示という観点では「合理的な投資家が、議決権行使や投資の意思決定を行う際にその情報を重要視する可能性がかなり高い事象がマテリアルである。」が基本的な考え方であり、この原則(マテリアリティ)に基づいて、企業が自社でマテリアルだと判断した情報は開示することが求められる。そして、ここで言う「合理的な投資家(reasonable investor)」とは、「開示を行った企業への投資に対する金銭的リターンに関心を持つ人のこと」である。従って、「マテリアルな情報と投資の財務的リターンとの間には明確な関連性がある。」ということを前提に考えると、気候変動関連に関して明らかにマテリアルだと認識する企業は、それら事象を開示する必要があるであろう。今年3月21日に米国証券取引委員会(以下SEC)は「Enhancement and Standardization of Climate-Related Disclosures(気候関連情報開示の強化・標準化)*注1」と題し、日本でいう法定開示書類である「Form 10-K」などの定期報告書に、気候関連情報の掲載を求める規則改正(案)を提案し、意見表明を60日以内、つまり5月20日までに行うよう求めた。しかしながら、規則改正案は490ページ、脚注1,060もある膨大なもので、5月25日付で提出された米国下院議員118名による反対声明では、「規則案の規模を考えると、検討期間が不十分であることを懸念している。このような複雑な規則に対して、SECがコメント期間を短縮していること、また、規則制定過程における一貫性の欠如は、これらの重要な問題に対する公衆からの必要な意見を減らす結果となり、問題である。」として検討期間及び内容そのものを問題視するコメント*注2が相次いでいる。しかし、ここでは、まずそれらの改正案概要を見てみよう。

    

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